個人版民事再生法
1個人版民事再生手続とは?
個人再生手続は、裁判所が認めた金額を3年間(例外として5年間)、債権者に支払って借金を整理するものです。
個人のための民事再生手続は、2001年4月から施行されています。
2個人版民事再生手続とは?
- 任意整理よりも低い金額で整理できる
個人再生手続によると、利息制限法にもとづいた金額よりさらに低い金額で再出発できる可能性があります。 - 資格制限を受けない
破産手続では、一定の期間、特定の職業につけないという資格制限がありますが、個人再生手続にはこうした制限はありません。 - 借金の理由を問われない
破産手続では、借金の理由によって免責を受けられるかどうか変わります。たとえば、浪費やギャンブルが原因のときには免責不許可事由と定められていますので、免責が受けられなくなることがあります。
しかし、個人再生手続では、借金の理由は手続に影響することがありません。
ただし、デメリットもあります。
・手続がかなり複雑です。
・弁護士費用がほかの手続より高目です。
3個人再生手続には2種類ある
- 小規模個人再生と給与所得者再生の違い 個人再生手続には、小規模個人再生と給与所得者再生手続の二つがあります。
小規模個人再生手続とは、将来において継続的に、または反復して収入を得る見込みのある個人を対象にしたものです。主に自営業者を対象としていますが、実際には会社勤めの人や公務員でも利用しています。
給与所得者再生手続とは、小規模個人再生手続の要件に加え、さらに給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがあり、かつ、その変動の幅が少ないと見込まれる人が利用できるものです。こちらは給与所得のない自営業者は利用できません。 - 小規模個人再生手続の利用者が増えている サラリーマンのような給与所得者は、両方とも選べますが、小規模個人再生手続を選ぶほうが有利です。小規模個人再生手続をしたほうがより少ない支払金額で 再生計画を立てることができる可能性があるからです。
小規模個人再生手続では、債権者が積極的に再生計画案に異議を述べると、計画が認められません。
しかし、実際には異議を述べる債権者はほとんどいませんので、支払金額のより少ない小規模個人再生手続の利用が増えています。
小規模個人再生手続を利用できる人の条件とは
継続的な収入が必要
小規模個人再生手続には、次の二つが必要です。
- 債務総額が5000万円以下 小規模個人再生手続を選ぶことができるのは、債務総額が5000万円以下の人に限られます。
ここでいう債務総額というのは、利息制限法に引き直した金額です。住宅ローンは含まれません。 - 継続的または反復して収入を得る見込みのある者でなければならない つまり、将来にわたって継続的に収入が得られる人であることも要件のひとつです。
生活保護受給者は個人再生手続を利用できない
年金生活者も、小規模個人再生案を提出するまでに就職できていれば、「将来、継続的に収入が得られる見込みがある」と言えますので、この手続を利用することが可能です。
しかし、生活保護受給者は、この手続を利用できません。
4小規模個人再生手続で返済しなければならない金額
支払金額は破産手続より多い
小規模個人再生手続の場合には、法律上「再生手続を利用する以上、これだけの支払はしなければならない」という最低弁済基準額が定められています。
この最低弁済基準額は、債権調査手続によって確定した無担保債権の総額を基準に定められています。
- 債務総額が100万円未満の場合は、債務総額を支払う
- 債務総額が100万円以上500万円以下のときは、100万円を支払う
- 債務総額が500万円を超え1500万円以下のときは5分の1を支払う
「清算価値保障の原則」という制限
再生計画による弁済額を決めるには、清算価値保障の原則に反してはならないという制限があります。
清算価値保障の原則とは、「再生計画による弁済額は、破産手続で支払われる配当額以上を支払わなければならない」ということです。
再申立できる小規模個人再生手続
小規模個人再生手続の場合は、途中で返済計画が守れなくても、改めて申し立てることができます。
ところが、給与所得者再生手続のほうは、7年の間、再申立は認められません。
5給与所得者再生手続を利用できる人の条件
給与所得者再再生手続を申し立てるときに求められる要件は、次のとおりです。
- 債権総額が5000万円以下であること
- 継続的または反復して収入を得る見込みのある者であること
- 継続的収入の変動幅が小さい(過去2年間の年収で20%以内と見込まれること
6個人再生手続は持ち家を手放さずに利用できる
住宅資金貸付債権に関する特則のメリット
個人再生手続では、住宅ローン(住宅資金貸付債権と呼んでいます)を支払いつつ、つまり債務者が住宅を手放さないままで経済的な立ち直りができるように、住宅資金貸付債権の特則が定められています。
この特則は小規模個人再生、給与所得者再生のどちらの手続であっても利用することができます。
ただし、すでに数ヶ月もの間、住宅ローンを滞納しているときには、なかなか利用しにくいのが現実です。
住宅ローンの支払に滞納額がないとき
- 住宅ローン以外に毎月一定額が用意できる
この特則を利用したとしても、住宅ローンの支払額自体が減るわけではありません。
そのため、住宅ローンは支払えるものの3年でほかの債権者に支払うだけの毎月の返済額が用意できないときには、この特則を利用することはできません。 - 現在の住宅ローンの支払を続けることができる
住宅ローンに遅滞がなく、現状どおり支払を続けることが可能であれば、そのまま住宅ローンの支払をすることが可能です。
現在は住宅ローンを計画どおり支払っているが、すこし厳しいというときには、弁済期間を延長することを約定する制度があります(リスケジュール型)。
しかし、延長期間は10年間以内に限られています。また、延長後の最終弁済時期に債務者が満70歳以下であることという制限もあります。
7個人再生委員とは
申立が裁判所に受理されると、個人再生委員が裁判所により選任されることがあります。
個人再生委員は、申立人の財産や収入を調査し、債務者が適正な再生計画案を作成できるよう助言するほか、申立人の作成したとおりに支払をすることができるかどうかを判断します。
申立人は、再生手続開始が決まると、その後、再生計画が認められるまでの間、申立時に申告した毎月の支払予定額を確実に、個人再生委員に支払い続けなければなりません。これは、ちゃんと債務者(申立人)が支払い続けることができるかどうかを判断するためのものです。
8再生計画案の提出
計画弁済期間は原則として3年です。ただし、「特別の事情」があれば5年まで延長することができます。
「特別の事情」は、実際には、よほどの特別の事情が必要となります。
9再生計画案の認可
再生計画案に問題がなければ、再生計画は認可されます。
認可されたら、定められた再生計画案にしたがって、各債権者に支払を始めます。再生計画が認可されてからおよそ1ヵ月後に再生計画の認可は確定し、支払開始は確定した月の翌日からとなります。
再生計画認可決定の確定により、再生債権者の債権額は、再生計画で定められた支払金額に変更されます。
再生計画認可決定が確定すれば、個人再生手続は終了します。
そして、それから3年間、計画どおりに支払を続けていかなければなりません。
102年以内の弁済計画の変更は可能
再生計画が認可されたとしても、再生計画の履行中に再生計画を履行することができなくなる場合もあります。
やむを得ない理由によって毎月の返済が著しく困難になったときには、2年を超えない範囲で、弁済期間を延長する再生計画の変更を申し立てることができます。
つまり、当初の再生計画で3年間と定めていた場合は5年まで、5年間と定めていた場合は7年まで延長することができます。
もっとも、あくまで「やむを得ない事情」があると認められるときだけですので、常に延長が認められるわけではありません。
11「期間を延長しても払えない」という状況になったとき
債務者の責任ではないけれど、弁済期間を延長しても返済できそうもなくなったときには、すでに弁済額の4分の3以上を弁済しており、免責しても一般の利益に反しなければ、裁判所に免責の申立をすることができます。
裁判所は届出債権者の意見をきいたうえで、免責の可否を判断します。
免責が確定すれば、債務者はまだ履行していない部分の債務の全部を支払うことを免れることができます(これをハードシップ免責といいます)。