~暮らしの中の権利を守る~不知火合同法律事務所

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クレジットカウンセリングの必要性

破産者は取締役の欠格事由ではない

 2006年の会社法改正によって(会社法331条1項)、株式会社の取締役の欠格事由から、破産者であることが削除されました。その前は、破産の宣告を受けて復権しない者は取締役になれないと商法に明文の規定(256条の2)がありました。今度の法改正は、債務者の再出発をより容易なものにすべく、再出発の障害となるものを少なくしようという政策的配慮によるものと考えられています。
 ただし、現実には破産した人が再起したとしても、会社の取締役になるという例はあまり多くないと思います。それは、たとえ借金を帳消しすることに成功したとしても、精神的なダメージから脱却できているとは限りません。会社を経営するほどの自信を回復する人は少ないのが現実だからです。
 実は、私は少し前まで、この会社法改正があったことを、恥ずかしながら知りませんでした。私の周囲にも、法改正を知らず、相変わらず破産者は取締役になれないと考えている弁護士が何人もいました。このことは、それほど破産者が取締役になるというのが現実に問題となっていないことの反映でもあると私は考えています。

三郷借屋請負人

 ところで、江戸時代にも自己破産の制度があり、よく利用されていました。江戸時代には分散と呼ばれていました。井原西鶴の『日本永代蔵』には、この分散の実情がかなり詳しく紹介されています。そして、大阪(当時は大坂)では、商売人が商取引に失敗して分散することが多かったことから、分散した人を収容して再起させるために「三郷借屋請負人」の制度が設けられていました。これは、大阪三郷に各一か所ずつ、分散した人を収容する長屋を設け、「請負人がその長屋の世話人となって長屋を貸与して財産を再興して、他日復権の日を期せしむる一種の社会的設備」でした(小早川欣吾『近世における身代限り及分散続考』)。
 現在の日本では、ひところよりは少なくなったとはいえ、年間10万人ほどの破産者が毎年生まれているわけですから、そのような「社会的設備」の必要性ははるかに大きいと考えられます。しかし、国はそのような対策をまったく考えていません。それに代わるものとして存在するのが、全国各地にある「クレサラ被害者の会」です。詳しくは後に紹介しますが、各地の「クレサラ被害者の会」の多くは、長屋を提供するなどの「社会的設備」のようなものこそ実現できていませんが、勉強会やレクリエーションなどを通じて、多くのクレサラ多重債務を抱えて悩んでいる人たちの心の支えになっています。このことは、もっと評価されていいことだと私は考えています。
 全国各地の「被害者の会」は年に1回の全国交流集会をもつほか、九州ブロックや中国ブロックなど、ブロックごとの交流も盛んに展開しています。これらの「被害者の会」は自治体による多重債務対策会議のメンバーになっているところも少なくなく、次第に社会的な認知を受けていますが、ほとんどカンパのみにたよっているというように、その財政基盤がきわめて脆弱だという大きな問題点も抱えています。

借金の原因はさまざま

 アメリカ発の金融危機に端を発して、世界的にも不況が一段と深刻になっています。そのため、会社の倒産による失業、残業がなくなったりすることによる給料の大幅ダウンや遅配欠配など、借金の原因として生活苦が3割以上を占めていることは間違いありません。子どもたちの学資が足りない、家族が病気になって治療費がかさんだ、などということも借金の原因になっています。非正規雇用のため、一見すると手取り給料は高そうに見えても、社会保険・労働保険に未加入という人も少なくありません。彼らは貯えもないため、失業したら直ちに明日から住むところもないことになります。また、病気になっても医師にかかれないという人も多いという実情にあります。このような人々にとって、生きていくためには借金するしかないわけで、借金返済のために借金を重ねても、そのことを責めるわけにはいきません。

支えあい励ましあう場としての被害者の会

 呉つくしの会は、10月19日、大人と子ども18人がイモ掘りにバスで出かけ、バーベキューを楽しみました。今年2回目のレクリエーション活動です。
 また、会の広報活動として、11月2日(日)、市内にポスター・ステッカー貼りに取り組みました。参加者19人が車5台に分乗して、市内全域に600枚近くのステッカーを張り巡らしたのです。「一人でも多くの人が助かるようにと思って貼った」という参加者の感想がニュースで紹介されています。
 大阪いちょうの会は、毎月第二土曜日に、昼食を皆でとりながらの交流会を開いています。参加者は何でも自由に好きなことを話していい。一人ずつ気持ちを吐き出してもらう。話すのを無理に強要はされない。話すのが苦手だという人はパスしてもいい。こんな会合です。
 運営委員は、かつて被害者だった人です。だから、みんなで気楽に話し、苦労話を共有しあいます。もう二度とこんな状態に、悲しいいやな思いに包まれたくない。だからこそ今、嘆いておく。さんざん自分を嘆いて、悔しい気分を味わい、それを言葉に乗せて、誰かに聞いてもらう。こころの中によどみたまったものを出して、洗い流し、新たな自立再建を目ざすのです。被害者を卒業したら、今度は「支える側」としてボランティア運営の一員として手伝うようになります。その中で、いろんな話を聞くのです。
 この循環を繰り返しながら、生きる幸福を感じましょう、自分を信じて自由に笑いましょう、と呼びかけています。これって、とても大切な取り組みではないでしょうか。
 和歌山のあざみの会は、借金をいそいで解決するのではなく、まず生活の立て直しが重要だと強調しています。

リピーター対策も欠かせない

 高松あすなろの会の原因調査によると、生活費不足のためとするのが半数近い44.7%ですが、2位はギャンブルで、31.4%にものぼっています。このほか遊興費は14.0%となっています。
 そして、ここでは多重債務リピーター調査もしています。45%の人が2回目以上の再度の整理だったというのです。1回目の借金整理のとき、借金原因が未解決のままだったり、生活の立て直しが不十分だったために再度借金したものと思われるとしています。また、何度も家族の援助で解決してもギャンブルが止められない人がいます。
 貧困など生活費不足が原因の人であっても、借金を整理しただけでは、再び借金してしまう人がいます。それには、貸金業者からの勧誘もあります。家族の援助で一括返済した業者から本人のケータイに「お金を貸します」という電話が入ります。また、自己破産した人がヤミ金などのダイレクトメールを見て電話するというケースもあります。再び借金する人のなかには、借金に依存する習慣を植え付けられている人もいるのです。
 福岡ひこばえの会の相談統計を鍋谷健一氏(高松あすなろの会)が分析しているので、それを紹介します。
 相談数のうち、リピーターの割合が01年の4分の1から05年の3分の1に4年間で増えている。
 リピーターが前に借金整理したのは、身内の援助を受けて、が54%だったのが、23%に激減し、法的解決が39%から60%に大きく増えている。
 その法的解決の内訳は破産が3割から5割へと増えている。
 「多重債務は原因ではなく結果だと言われて久しいが、法的解決だけで済むケースとそれだけでは生活の立て直しには至らないケースがある。貧困、病気、ギャンブルや買い物、アルコールなどの依存症、障害などによる低い生活能力、長期にわたるストレスいっぱいの生活などから自己肯定感が持てなくなり、エンパワーメント(励まし)が必要な人などに対する援助技術が多重債務対策にも必要である」
 鍋谷氏は、結論として、「多様な多重債務者に多様な援助を」と訴えています。私も、まったく同感です。

ギャンブル依存症

 全国クレジット・サラ金対策協議会の「クレサラ白書」から引用しながら、ギャンブル依存症の問題について考えてみます。
 ギャンブル依存症者は、全国に200万人いると推測されています。依存症者は、多重債務に陥って発覚するケースが多い。このギャンブル依存症については社会の認知度は低く、いまだに「本人の意志の弱さ」が原因と見るむきが根強く、予防や回復に向けた国の対策の動きも鈍いのが実情です。
 多重債務問題に取り組む弁護士は、全国クレサラ対協のなかに依存症問題対策全国会議を発足させました。国にギャンブル依存症への保険適用を働きかけつつ、「依存症は病気。正しい認識を」と市民に理解を促す方針です。
 「ギャンブル依存症」の著書がある田辺等医師(北海道立精神保健福祉センター部長)は「自分をコントロールできないほどギャンブルにふけるのは、意志の問題ではなく病気」だとします。
 ギャンブル依存症は、借金を重ねて仕事や家庭に大きな影響が出ても、なおギャンブルから抜け出せない症状で、世界保健機関(WHO)も病気として認定しています。
 依存症者は借金をしてでもギャンブルに没頭します。ギャンブルの資金に充てようと借金を繰り返すため、依存症者のほとんどが多額の債務をかかえてしまう。
 「高松あすなろの会」の調査によると、借金の原因のうちギャンブルが13%を占めましたが、鍋谷健一事務局長は「これは氷山の一角にすぎない」と言います。
 借金苦から詐欺や横領などの犯罪を起こす場合もあります。ギャンブル依存症者の回復施設「ワンデーポート」の中村努施設長は「依存症者は本人も分からないうちに道徳心がなくなり、犯罪に走ってしまう」とし、「本人は病気だと認めないのが、この病気」、依存症者は「いつでもやめられる」と思い込み、もう自力で抜け出せない状況に陥っているとは夢にも考えないと言います。
 家族も依存症者とともに何とか問題を解決しようと苦慮し、本人以上に深く苦しむのです。結局、離婚などの家庭が崩壊することも少なくありません。
 三船病院(丸亀市)の内海剛聡医師は「悲しい結末を迎えるしかないのに、気づかず止まらないのが依存症の怖さ」と言います。
 大谷大学文学部の滝口直子教授(文化人類学)によると、ギャンブル依存症になりやすい人は、遺伝や脳神経系に関する要因を含め、いろいろなタイプがあり、うつや子どものころに受けた虐待なども、依存症になりやすい要因に挙げています。
 強度のストレスから中高年になってなる人も多く、原因は本当にさまざまで、カジノなどのギャンブル施設や、簡単にお金が借りられる環境が近くにあることも良くない、と指摘されています。
 依存症になりやすいギャンブルについては、スロットマシンなどのマシン系でなる人が圧倒的で、音や光の刺激に加え、壁に囲まれた中で、マシンと向かい合って興じるという環境は興奮度を高め、非常になりやすいと説明されています。
 本人もどこかおかしいとは思っているが、ギャンブルができなくなるから隠し続け、借金を返すためにギャンブルを繰り返してしまうのです。
 依存症者同士が回復を目指して取り組むギャンブラーズ・アノニマス(GA)がありますが、やめられる人は少ないのが実情です。

依存症はどのようにして始まり、進行するのか

 学者は原因について、次のようにたくさんの要因が考えられるとしています。

1) 楽しみ、好奇心、遊びの繰り返しの中で始まる。
2) 競争社会、とくに経済競争、点数競争、利益追求の競争原理から発生するストレスの解消。
3) 貧乏からの脱却(金銭追求)。生活閉塞感からの逃避
4) 富裕層への幻想と憧憬
5) 生活の中で人間関係によるストレス(職場、家族、親族、地域)
6) 現代社会の中での孤立、孤独感が社会的条件としてあげられ「何かに熱中するものを求め、ホール内での仲間を求める。

 また、心理的な背景として、

1) 日常生活の充足感、充実感に欠けている。
2) 自分への肯定感がもてない、他者と比較してダメな感覚を持っている。
3) 仕事にまたは学業に取り組んでいる自分が本当の自分ではない気がする。
4) 何を目標にして生きるべきかを見失っていた。
5) 空虚、空白、憂鬱な気分が続いた。

 このような状況でギャンブルに出会い、勝ち負けに興奮し、ついに勝利の達成感、有能感を体験し、日常生活での不満が一時的にせよ解消し、繰り返しが続いて、やりすぎてしまうのです。
 この状況をより進行させる日本型ギャンブルシステム(娯楽産業として君臨しているパチスロ業界)があります。気軽なサンダル履きで身分証のチェックもない、より至近の生活圏の中に存在するギャンブル場は世界に類を見ない特異なものです。娯楽場に入るのだからと罪悪感は薄められ、若年時代から抵抗もなくギャンブル場に出入りする習慣を容易につくってしまいます。
 GAに通うこと、通う気持ちになることが回復の第一ステップです。通う気持ちになるまで話をする、そして行動を起こさせることは多重債務相談の、とくに「被害者の会」の役割だと、吉田洋一氏(依存症対策等全国会議の代表幹事)は強調します。

サルでもできる弁護士業か?

 最近、マスコミで大々的に宣伝している『サルでもできる弁護士』(西田研志・幻冬舎)という本が売れているそうです。
 「弁護士としてすべきことは、極論すれば何についての相談か、どこに問題があるのか、その判断だけである」「まず、ズバリ問題の核心に迫り、解決方法を述べる。そうすると、多くの悩みも一気に解決する」
 「依頼人の話を一から十まで懇切丁寧に聴く必要があるだろうか。はっきり言うが、まったくないのである」「弁護士の仕事は、最終的な結果を導き出せれば完了するし、依頼人もそれを望んでいるはずだ」「従来の弁護士はカウンセラーとなっており、問題解決に必要のない事柄に多くの時間を割いている。これでは、大量の事件処理をすることができないのは当たり前だ」
 このように、多重債務の事件処理については、ITを使って一括大量処理を行うべきだと西田研志弁護士は提唱しています。しかし、私はこの発想は事案を本質的に解決することにはならないばかりか、弁護士と司法に対する不信感を増す危険もあると考えています。
 西田弁護士は、24時間対応のコールセンター(100人体制)を置き、マニュアルに従って「一糸乱れず事件を管理・処理」していっているといいます。その規模は、年間6000件、年間の売上規模は二十億円だと自慢しています。
 私は、私自身がパラリーガルの活用を提唱してきましたので、その点を否定するつもりはありませんが、マニュアルだけで「一糸乱れず」に事件が処理できるほど単純・簡単な事案だとはまったく考えていません。パラリーガルには、心理学を勉強してもらう必要があると思いますし、なによりマンツーマンでじっくり時間をかけた聞き取りからスタートすべき事案だと考えています。
 西田弁護士は、大量処理によってビジネス化したことを自慢したいのでしょうが、そのやり方は根本的・致命的な欠陥があると思えてなりません。